序章・死神との約束
✥ 序章・死神との約束 ✥
§ 1954年6月7日、死神との約束
あなたは、この言霊(呪文)に 聴き覚えがあるだろうか? これから始まる物語は 精霊たちの世界で起きた “本当の白雪姫の物語”である。 この世を織り成す3つの世界 1つ「12月からなる人間達が暮らす《12月世》」 2つ「13月からなる光の精霊達が暮らす《13月世》」 3つ「闇の精霊達が暮らす《霧の国》」 この3つの世界は絡み合い 1本の糸のように存在している これからお話しする『白雪姫の物語』は 1954年6月7日 夕月の美しい英国で ある1人の男と交わした“約束”から始まった。
さあ 〈始まりの林檎〉を手に取って “3つの世界へ(物語へ)”旅に出よう 《霧の国》の使者 死神フロイデ

第一章・《霧の國》から《金色野原》へ

✥ 第一章・《霧の國》から《金色野原》へ ✥
§ 闇の精霊たちが棲む《霧の國》の魔女トワルと白雪姫シンニード
《霧の国》に、世にも稀なる美しい少女がすんでいた。 少女の名前はシンニード。 黒檀のように黒い髪を持つ《霧の国》の魔女トワルさまの一人娘の王女であり、白雪のように白い肌と血のような紅い唇を持つことから、“白雪姫”と呼ばれていた。 シンニードは、13歳の誕生日に 《霧の国》の女王になることが定められていた。 《霧の国》を治める魔女トワルさまは、シンニードを立派な女王に育てるために、あらゆる学者や優れた魔法使いを城に呼び寄せ、シンニードに厳しい魔法の勉強や習い事をさせていた。 遊びたい盛りの少女にとって、窮屈な毎日だった。 トワルは毎朝、シンニードの真珠色の髪をとかしながら 魔法の鏡の前に立ち
と、謳った。 シンニードは眠ると、不思議な夢にうなされた。 自分にそっくりな少女が林檎を差し出す夢。 それは決まって、恐ろしい夢だった。
§ 死神フロイデ

「姫は林檎はお嫌いか?」 シンニードは、突然の声に驚き目覚めた。 目の前に、フロイデが立っていた。 霧の国の魔女トワルの最高指揮官の使者であり、霧の国最古の死神であるフロイデは、 シンニードに、《霧の国》の歴史と古代魔術を教えていた。 シンニードが幼い頃から日々の厳しい生活をこなす姿を見守ってきたフロイデは、シンニードの度々の居眠りや子どもじみた遊びに寛大だった。 シンニードは、そんなフロイデが大好きだった。 フロイデは、まるでシンニードの悪夢を知っているかのように語った。 「紅い林檎が、薬となるか毒となるかは、シンニードさま次第。そのために学ぶのですよ」 シンニードは、恥ずかしそうに微笑み、尋ねた。 「お母様も《霧の国》の死神や魔女たちも、なぜ《12月世》や《13月世》から、子供たちを攫うのかしら? 居場所のない子を攫い続けるなら、《霧の国》は誰も住めないくらい、いっぱいになってしまうわ」 フロイデは答えた。 「シンニードさま。その通り。“居場所のない者”は増え続けている。トワルさまは夢を伝い、“居場所のない子供”達に蜜飴(※訳註:トワルの涙でできた催眠飴)を与え《霧の国》に連れ帰る。私たち使者も“居場所なき迷える魂”を霧の国に持ち帰る。 今まで世界は《3つの国》の調和を保ち、維持してきた。 しかし、もう限界の時期に来ている。 トワルさまは、《3つの国》を《1つの国》にしようとしているのです。《霧の国》ひとつにね。 そして、その“壮大なる霧の國”を治めるのが、シンニードさまなのです」
§ 片目のシャーデン
シンニードは12歳になると、《霧の国》に棲む300歳の魔女と同じくらいの魔法が使えるようになっていた。 トワルさまの使者“片目のシャーデン”(※死神フロイデと共に古くから《霧の國》に棲む闇の精霊)は、シンニードが城から逃げ出さないよう護衛と見張りを担っていた。 シャーデンは、バラッチュという六本足の馬を疾風の如く乗りこなす乗馬の名手であり、とてもおしゃれな女の子。シンニードは、シャーデンに憧れていた。 ある夜、シャーデンは、「城の外の世界を見てみたい!」と懇願するシンニードに、“新月のマント”という身を隠す魔法のマントを着せ、バラッチュに乗せると、「13人の踊るお姫様」という秘密倶楽部に連れて行った。 シンニードは初めて、城の外の世界に出て、《霧の国》に棲む沢山の死神や魔女たちを知った。 しかし、シンニードは城の中と同じように、籠の中の鳥のような居場所のなさを感じていた。

§ “忘れられた月”という名の骨董屋
月の美しい夜だった。 シンニードの寝室の窓の外に白いフクロウが現れ、バルコニーに林檎を置いた。 恐る恐る林檎を手に取ってみると、小さな鍵穴が空いている。 不思議に思ったシンニードは、“新月のマント”を羽織り身を隠し、フクロウの後を追い城を出た。 暗い森の中を歩いていくと、遠くに小さな蝋燭のような灯りがともる木の空(ウロ)が見えた。 樹に近づき、そっと穴を覗いてみると、さっきの白いフクロウを肩に乗せた男がいた。 男は、振り向き言った。 「はじめまして。私の名前は“レスモネ” ここは“忘れられた月”という名の 忘れられた宝物を売る骨董屋だよ」 身を隠すマントを見破るようなレスモネの言葉にシンニードが驚くと、見抜くようにレスモネは続けた。 「私には “見えないモノ”は無いんだよ、お嬢さん あなたに必要なのは、この“鍵” だ “新月のマント”と交換しよう」

レスモネは、シンニードの手のひらに鍵を乗せ、ひらりとマントを奪った。 不思議な骨董屋もレスモネも、まるで夢であったかのように、消えていた。
【1🍎】

§ メアリーの部屋で始まりの扉は開く
シンニードは城の部屋に帰り、テーブルの上に置いた〈鍵穴の林檎〉に、レスモネからもらった鍵をさしてみた。 すると、たちまち林檎の中に吸い込まれてしまった。 林檎の中は色のない白黒の部屋だった。 奥の小さな扉が開き、ひらひらと泳ぐように少女が現れた。 「はじめまして。私はメアリー。アップルティーをどうぞ」 部屋の中に甘い林檎の香りが広がると、 シンニードは魔法にかかったように心地良くなった。 「なんて素敵な香り…私、林檎が怖いことを忘れていたわ…それに、この部屋には“色”がないのね…」 メアリーは答えた。 「この部屋には“色”がない。 けれども、この林檎は“紅い林檎”なの。 私はこの部屋から出たことがないけれど、 全ての色を知っているわ。 色だけでなく、全てを知っているの。」 メアリーは《霧の國》の外にある世界の色々なお話しをシンニードに話してくれた。 シンニードは、《霧の國》から出て、自分の本当の居場所を見つけたいと思った。 2度目に《メアリーの部屋》に訪れると、メアリーはアップルティーを淹れながら言った。 「これからは、選ぶことの連続になるわ。シンニード。 目の前の扉のどれを選べば良いか迷った時は、〈楽しそうなドア〉を選ぶこと。」 シンニードは、微笑み言った。 「私が“居場所”を見つけたら、今度は私がアップルティーを淹れてあげる」 3度目に《メアリーの部屋》を訪れると、メアリーはいなかった。 部屋には三つの扉があり、扉にはそれぞれ 〈輝く翼〉、〈逆さまの樹〉、〈髑髏と蛇〉が描かれていた。 シンニードは〈輝く翼〉が描かれている扉を開けてみた。 すると、そこは深い海だった。

§ 子どもに戻る《子守歌の国》
深い海に落ち呑み込まれ、シンニードは溺れて気を失った。 そこは、《子守歌の国》と呼ばれる深い海だった。 《3つの世界》を行き来する〈揺籃歌の林檎〉という林檎の気球が往航しており、シンニードは、光の精霊たちが乗る林檎の気球に助けられた。 気球の旅の間に、シンニードは3歳の子どもの姿に戻ってしまった。 やがて、光の精霊たちが棲む《金色野原》に辿り着いた。
【2🍎】

§ 光の精霊たちの棲む《金色野原》
“友だち”を知らない3歳のシンニードに《金色野原》の幼い精霊たちは優しく手を差し伸べ、温かく迎え入れた。 そして、新たな友への祝福として、それぞれの“いちばんの宝もの”を、シンニードに贈った。 ゾウムシ王國の末っ子姫グランちゃんは、金色野原の花々で作った“花冠” てんとう虫のはるおみくんは、“虹の光を宿す美味しい朝露玉” みつばちメルちゃんは“笑顔になる甘い花粉”……。 金色野原の精霊たちを護る女神〈光と影の女王チェーニ〉の一番弟子“毛虫の王子ピッピ”は、とっておきの宝物である林檎〈友情の林檎〉をシンニードに贈った。 シンニードは林檎をかじった。 そして、初めて食べものを「おいしい」と思った。 〈友情の林檎〉を食べたシンニードは、少し背が伸びていた。 蟻の精霊ダリズは、シンニードに贈り物を渡せなかった。 なぜなら、ダリズも〈友情の林檎〉を渡したかったから。 ダリズは、渡しそびれた林檎を、そっとポケットにしまった。
【3🍎】

第二章・〈三種の指輪〉を求めて 前編
✥ 第二章・〈三種の指輪〉を求めて 前編 ✥
§ 《霧の國》の襲来
シンニードは、温かな光に満ちた金色野原で、光の精霊たちと幸せに暮らした。 《金色野原》に住む光の精霊たちは、ほとんどが幼い子どもの精霊たちだった。 蝶々やミツバチ、てんとう虫のように、みんなそれぞれに違う素敵な翼や触覚を持ち、日が暮れるまで野原で遊んだ。 13歳になると、《13月世》を守る女神「光と影の女王チェーニ様」から、それぞれに合う役割を与えられた。

しかし、アリの精霊ダリズだけは、居場所のなさをいつも感じていた。 ダリズは生まれた時から触覚がなく、触覚がついた帽子をかぶって隠していたが、いつも周りの働きアリたちにいじめられていた。 そして、朝から晩まで蟻塚を作る暮らしに馴染めずにいた。 なぜなら、ダリズは空中に踊るように線を描き、光の線で、美しいガラスのような輝く建物や家具を作ることができたからである。 働きアリたちは、そんなダリズを笑いものにしたが、《金色野原》の精霊たちは、みんなダリズの魔法が大好きだった。

ダリズが、いつものように、《金色野原》で光輝く美しい椅子を作ると、シンニードは手を叩きながら大喜びで光の椅子に座り、奇妙な言霊を歌い出した。 すると、野原に咲く金色の花々が人形のように動き出し、みんな大喜び。 シンニードは土や花々で次々と人形を作り、不思議な魔法で動かし始めた。 ダリズは、人形たちに素敵な家や家具を作った。 ダリズとシンニードの魔法は、朝になると消えてしまうため、2人は毎日魔法を使い、精霊たちを喜ばせた。

ピッピはどんぐりドラムを叩き、精霊たちは、金色たんぽぽの綿毛や“ポレポレン(※音楽を奏でる花粉)を追いかけて遊ぶ。 美しい黄金の花々と光の精霊たちが遊ぶ姿は、この世の物とは思えない、幸せな美しい光景だった。

そんなある日のことだった。 《金色野原》が、突然濃い霧に包まれた。 光の精霊たちは叫んだ。 「霧の国の使者たちがやってくる…!」 深い霧はたちまち空を覆い、霧の中から《霧の國》の使者たちが煙のように姿を現した。 《霧の国》の王女、シンニードを探しにきたのである。

光の精霊や植物は、《霧の國》の使者に触れると白化(白い宝石)に変わってしまう。 深い霧に覆われ、 金色に輝いていた美しい野原の光は奪われ闇と化し、 光の精霊たちが次々と白化する中、 ダリズは“霧避けのトンネル”を描きながら精霊たちを護り、 《金色野原》の外れにある《露鐘草の草原》に誘導した。 〈露鐘草〉には、魔物達から身を護る薬効があり、 “15万年眠り続け預言の夢を視る精霊ライラ”が、 光の精霊たちを守護していた。

シンニードが《露鐘草の草原》に身を隠すと、霧の国の使者「片目のシャーデン」が叫んだ。 「シンニード様は《塔の國》に逃げられた!」 深い霧は巨大な猛獣のように、北の空に消えていった。

荒れ果てた《金色野原》にポツンと、 白い宝石になった小さなピッピが横たわっていた。 毛虫の王子ピッピは、〈カナンカの鏡※チェーニ様から護神と愛の証として贈られた鏡〉で追っ手たちの魔力を跳ね返しながら命懸けで戦い、 シンニードをかばった時に鏡を落とし、魔力を受けてしまったのだ。

《金色野原》は、精霊たちの悲しみの涙のように雨に覆われた。 チェーニは“時の魔法”によりピッピの身体が朽ちないよう魔法をかけ、ピッピを〈硝子の棺〉に入れた。 棺を護るように、雨は純白の雪に変わり、振り続けた。

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§ 旅立ち
金色野原での《霧の国》の使者達との戦いの後、 ダリズの頭に、小さなコブのようなものが2つできていた。 ダリズはコブを見られないように、帽子で隠した。 チェーニさまの5番弟子であり、ピッピの心の友“エリザベス鳥のプップ”は、ピッピの魔法を解くために眠ることも忘れ、あらゆる書物や時祷書を調べていた。

「〈三種の指輪〉という伝説の指輪があれば、白化してしまったピッピを元に戻せるかも知れない……」と語った。 シンニードとダリズは、プップから渡された沢山の本を読みながら、いつのまにか眠ってしまっていた。 シンニードは不思議な夢をみた。 光の中からチェーニ様が現れ、シンニードをそっと抱き寄せ言った。 “三種の指輪を 探しにお行き 愛する友を 救うため 三種の指輪を 探しにお行き 冒険の林檎は 導いてくれる”

ダリズも不思議な夢をみた。 光の中からチェーニ様が現れ、ダリズをそっと抱き寄せ言った。 “三種の指輪を 探しにお行き 愛する友を 救うため 三種の指輪を 探しにお行き 本当のことを 知るために” 2人が目覚めると、林檎がひとつ、朝陽に光り輝いていた。 シンニードが手のひらに林檎を乗せてみると、林檎はふわりと宙に浮いた。 ダリズが「〈三種の指輪〉の元に連れていって!」と唱えると、林檎は動きだした。 2人は〈冒険の林檎〉の後を追い、旅に出た。
【4🍎】

第二章・〈三種の指輪〉を求めて 後編
✥ 第二章・〈三種の指輪〉を求めて 後編 ✥

§ 《宝箱の海》と《ギーアの館》
シンニードとダリズは、〈冒険の林檎〉の後を追い、海辺に辿り着いた。 「魔法で船を作れば先に行けるけれど、朝になると魔法は消えてしまう…」 ダリズが呟くと、海から「キュー!」と小さな声がした。 ‘もうすぐ“光の階段”ができるよ。階段を降りておいでよ’ 小さな龍の子はそう言うと、ポチャンと海に消えていった。 逢魔時になり、海の向こうの太陽から光の道がさし、光の道はゆっくりと海に沈んでゆき階段になった。 シンニードとダリズが海の階段を降りると、そこは、宝石のように美しい海の生き物たちが暮らす〖 宝箱の海 〗だった。 「あなたたち、だれ?」 声の方に振り向くと、5歳くらいの少女がいた。 少女の名前は“ロココ”。 ロココは、赤ちゃんの時に捨てられ、〖 宝箱の海 〗を守る魔女“マーヤ”に拾われた“桃海月(ももくらげ)”の女の子で、“ローパー”という名の真珠色に輝く子どもの龍を抱いていた。 ローパーは、シンニードとダリズに、“光の階段”を教えてくれた龍の子どもだった。 ローパーは、瀕死のところをマーヤに助けられたバジリスクの子ども。 ロココとローパーは、マーヤの愛情に守られ幸せに育ったが、 ロココは「5歳になったらママは迎えにきてくれる」と、固く信じていた。 そのため、ロココは5歳で成長を止めてしまっていた。 〖 宝箱の海 〗の海底には、“ギーア”という名の悪魔が棲んでおり、 海の美しい魚や貝や珊瑚たちをさらい、深海にあるギーアの館で、宝石や不老長寿の薬に変えていた。 海の生き物たちも、美しい海の命の輝きも、消えようとしていた。 桃海月の少女たちは13歳になると足が生え、ギーアにさらわれてしまうが、5歳のままのロココは、奇跡的にさらわれることを免れていた。 シンニードとダリズが海の魔女マーヤに〈三種の指輪〉のことを尋ねると、 マーヤは、「〈三種の指輪〉は《ギーアの館》にある宝箱の中に眠っている」と告げた。 マーヤは、〈魔法で封印した水晶の箱〉から、瞳の紋章が入った銀色に輝く剣をダリズに手渡し、言った。 「この剣は、悪魔ギーアの剣だ。“悪魔の剣でなければ悪魔を倒すことはできない”。其方(そなた)は、この魔法の剣を使いこなし、ギーアにとどめを刺すことができる。《宝箱の海》と桃海月の子どもたち、海の生き物たちを護るために、悪魔ギーアを倒してほしい」 と依頼した。 ダリズは、 「ギーアを倒し、桃海月の子どもたちを必ず助け出す」 と、マーヤに約束した。 永遠の少女ロココも案内役として、2人と共に《ギーアの館》へ向かうことを決意する。 ロココは、最愛のローパーをマーヤに託し「必ず帰るからね」と約束した。 3人は《ギーアの館》を目指し出発した。 ┈ ⋆⋆ ☪︎ ⋆⋆ ┈ 〖 宝箱の海 〗の底、漆黒の闇の中にある《ギーアの館》の中は、かつては海の生き物であった“宝石”達が、妖しく色鮮やかに輝き蠢(うごめ)き、哀しい歌が響いていた。 その時後ろから、「キュー!」と小さな鳴き声が響いた。 ロココがあわてて振り向くと、ローパーが胸に飛び込んできた。 「ローパー、ついてきちゃったのね…!ここはとっても危ないの…!絶対に離れちゃダメよ!」 ロココはローパーをしっかりと抱きしめた。 ギーアの瞳から放たれる光線を浴び、宝石に変えられてしまうのを防ぐために、ダリズは魔法で“鎧と盾”を作り、3人と1匹を護った。 ダリズは海中で光のように身を交わし戦った。 息を潜め隠れていたロココが、ギーアに見つかりそうになったとき、ローパーはロココを守ろうと咄嗟に飛び出した。 ローパーはギーアの瞳に睨まれ、一瞬で宝石に変わり落ちた。 ロココが狂ったように飛び出し、全身から海月の毒矢を放とうとした瞬間、ローパーを探しに追いかけてきたマーヤが現れ、魔法の海流爆弾を放ち、その隙にダリズは閃光の速さでギーアを〈悪魔の剣〉で切りつけ、とどめを刺した。 「漆黒の闇でこそ 一筋の光は美しく見えるものだ お前は“鏡”を殺し “瞳”の三俣槍を手にするのだ」 と、ギーアは最後の言霊を放ち、息絶えた。 〈悪魔の剣〉が割れ、ギーアの尻尾は“瞳の紋章のある三又槍”になり、ダリズはそれを手にした。 ロココは、宝石になってしまったローパーを抱きしめ、泣き崩れた。 マーヤは、巨大な水槽の中に閉じ込められていた桃海月の少女達を助けだした。 《ギーアの館》の13番目の部屋に、瞳の彫模様のある宝箱があった。 箱には鍵がかけられており開けることができない。 箱をよく見ると、瞳の掘り模様の近くに、3つの小さな穴が並んでいた。 ダリズが叫んだ。 「この3つの穴に三又槍を刺せば鍵が開くかも!」 マーヤ、シンニード、ロココは、驚き目を見開きダリズを見た。 ロココが怯える声で言った。 「…ダリズ!さっきの悪魔みたいな低い声になってる!」 ダリズは声変わりし、背も伸びていた。 ダリズの言葉通り、3つの穴に三又槍を差し込むと、宝箱は「ギィ…」と音を立て開いた。 箱の中から放たれる眩い光に、4人は目を閉じた。 光の中から、〈三種の指輪〉が現れた。 しかし、それらは3つに分かれていた。 バラバラになった〈三種の指輪〉を見てマーヤは言った。 「〈三種の指輪〉があれば、ローパーを甦らせることができる。 そのためには、バラバラになってしまった《冥界》《地上界》《天界》3つの部分を繋ぎ合わせなければならない。 そして、この指輪の魔力を引き出す“呪文の言霊”が必要だ。 その呪文は、世界一の魔力をもつ魔女が知っているはずだ。」 ロココは泣きながら「マーヤは世界一の魔女でしょ?ローパーを助けてあげて!」と叫んだ。 マーヤは悲しそうに俯いて言った。 「…ロココよ。世界一の魔女がどこにいるのか、私にもわからないのだよ。」 ロココは、ローパーを甦らせるために、 シンニードとダリズとともに、〈三種の指輪〉を手に入れる旅に出る決意をする。 マーヤは、旅の間にロココがローパーを落とさぬよう、〈ヴィーナスの花籠※偕老同穴〉のポシェットにそっとローパーを入れると、陸でも呼吸ができるよう魔法をかけた〈真珠の髪飾り〉をロココの髪につけ、ロココをギュッと抱きしめた。 ダリズ、シンニード、ロココは、〈冒険の林檎〉に次の目的地を尋ねた。 すると、ダリズの耳に、ギーアの声が蘇った。 “漆黒の闇でこそ 一筋の光は美しく見えるものだ” 見上げると、《ギーアの館》の天井に描かれた「生命の樹」の絵から 一筋の光が差し込んでいた。 天井の絵は、隠し扉になっており、 天井の絵を押すと扉は開き、3人は、眩い光に包まれた。 光は、下で3人を見上げるマーヤの顔を照らした。 マーヤは涙を拭い、笑顔で見送った。

§ 《イツの國》の《生命の樹》
ダリズは扉の上に先によじ登り、シンニードとロココを引き上げ、3人は扉の外に出た。 見渡すと、遠くに枯れ樹が一本立っているのが見えた。 3人は枯れ木に近づくと、とても大きな樹であることに驚いた。 そして樹を見上げると、木の枝に、痩せ細った“翼の生えた少女”がひとり、ポツンと座っていた。 「私はシンニード。あなたはだれ?」 シンニードの声に、樹の上の少女は、消え入りそうな声で答えた。 「・・・私の名前はアル・・・アマリエル・ムーンダーナ。 《イツの國》を護る天使・・・だったの」 「アル、始めまして。僕はダリズ。…ここは、《イツの国》なの? きみは、ひとりぼっちなの?」 アルは、話しはじめた。 「・・・ここは・・・美しい鳥たちの楽園だった。 この《生命の樹》も、昔は広々と葉を茂らせ、美しい花々が咲き、その花々から楽園の鳥たちが生まれた。 私は、心の友達 〈双頭の命命鳥(みょうみょうちょう)〉や〈妙音鳥〉達と歌い、私たちは幸せに暮らしていた。 ・・・けれども、愛する鳥たちは、《12月世》の人間達の“戦争”や“狩り”で殺され、自然破壊で亡くなってしまった・・・ そして〈生命の樹〉も、鳥たちを失った悲しみで枯れてしまった・・・」 シンニードとダリズが、アルの悲しい話しに言葉を失っていると、ロココの無邪気な声が響いた。 「ねえ、アル!大丈夫よ!シンニードとダリズは魔法が使えるんだから!きっと、鳥たちも樹もお花も、元通りにしてくれるわ!」 ダリズは、あわてて言った。 「僕たちの魔法は、かけることができても朝になると消えちゃうんだよ…… でも、きみが元気になれるなら、やってみるよ!」 アルの涙で潤んだ大きな瞳に、一瞬光が宿った。 シンニードとダリズは、ありったけの力を尽くし、《生命の樹》に魔法をかけた。 ダリズが《生命の樹》に魔法をかけると、樹は眠りから目覚めたように枝をのびのびと伸ばした。 シンニードが《生命の樹》の枝一つ一つに魔法をかけると、“2つと同じ花のない美しき花々”が花開き、花から美しい鳥たちが生まれた。 そして、かつての美しい鳥達と花々溢れる《生命の樹》を蘇らせた。 天使アルは立ち上がり、蘇った花々や鳥達と共に歌い始めた。 3人は、生まれて初めて見る美しい光景に圧倒され、夢の中にいるようだった。 アルと鳥たちの美しい歌声は《イツの國》に響き渡り、 シンニード、ダリズ、ロココも鳥たちと歌い、ダンスした。 しかしその魔法は、朝日が昇ると消えてしまった。 《生命の樹》には、たったひとつの〈分かち合いの林檎〉が残り、アルは、その林檎をシンニードとダリズとロココに差しだし、みんなで分け合って食べた。 林檎を食べた後、シンニードは、また少し背が伸びていた。
【5🍎】
ダリズが言った。 「アル。僕らは、〈三種の指輪〉を完成させるために旅をしているんだ。この指輪が完成すれば、きみの大切な鳥たちも生命の樹も、永遠に蘇らせることができるんだよ」 ダリズが、バラバラになった〈三種の指輪〉をアルに差し出すと、指輪の《地上界》部分が光り輝き、宙に浮いた。 すると、〈生命の樹〉から血のように紅い一雫の樹液が流れ、宝石になった。 アルが驚き叫んだ。 「・・・あれは・・・! 《生命の樹》の樹液からできる宝石〈ルミアルブラ〉よ!」 〈ルミアルブラ〉はふわりと飛びながら、磁石に引き付けられるように〈三種の指輪〉の《地上界》部分にある、目玉形の彫りの真ん中に嵌った。 その様子を眺めていたアルが呟いた。 「・・・〈ルミアルブラ〉が生命の樹から流れるのは、6666万年ぶり・・・“〈ルミアルブラ〉が現る時世界は変わる”という言い伝えがあるの。・・・私も、一緒に旅に行くわ!」 天使アルは、“鳥達と《生命の樹》を蘇らせ、永遠の理想郷”を復活させるために、旅の仲間に加わった。 4人は手を繋ぎ《生命の樹》の麓に行くと、ぐるりと幹を抱きしめた。 樹は枯れていたが、温かった。

§ 「隠された場所」にある《アメンティ神殿》
シンニード、ダリズ、ロココ、アルの4人は、〈冒険の林檎〉に導かれ、“月が笑う山”と“星が歌う川”を渡ると、やがて〈奇岩の谷〉に着いた。 すると、天空からシャラシャラと不思議な音が響いた。 4人が見上げると、巨大なカーテンのようなオーロラが降りてきた。 みんな口を開けたまま美しいオーロラに見とれていると、オーロラの中から美しい光の神殿が現れた。 アルが、驚いた顔をして叫んだ。 「・・・あれは!・・・“隠された場所”にあると言われる《アメンティ神殿》?」 神殿の扉の前には、まるで扉を護るように、巨大なスフィンクスが向かい合わせに立っていた。 ダリズが三又槍を構えて扉に向かおうとした時、二頭の彫像がダリズを睨んだかと思うと、目から矢のように光の光線を放った。 ダリズはあわてて飛び退き、シンニードが叫んだ。 「はじめまして。わたしはシンニードです。 私たちは、怪しいものではないわ! 魔法の〈三種の指輪〉を持っているけど、バラバラになったままなの もしかしたら、この指輪のことを知らないかなと思って・・」 その時、彫像から、低い大きな声が鳴り響いた。 「ひとつ質問をしよう。答えられなければそなたたちの命はないと思え。 “空っぽであるほど重く、満ちるほど軽くなる”ものは何?」 シンニードは黙り、ダリズは唸り、アルは翼を丸てしまった。 ロココが飛び出してきて一言、 「コ・コ・ロ!」と、叫んだ。 しばらく間があると、天空にギィー・・と音が鳴り響き、大きな扉が開いた。 扉の向こうから、拍子抜けするような、可愛らしい2人の猫の精霊が現れた。 「この扉は、質問に答えられた者しか開けることができないんだ。 僕らは、シュレーとディンガー。 この《アメンティ神殿》で、“人間たちにより悲しい死を遂げた動物たちの御霊”と、《黄泉の国》から授かった宝石〈冥界宝珠〉を護っている。 僕らはかつて、《12月世》に、双子の猫として生まれた。 《12月世》は、昔は、人も動物も自然も、それぞれが住みたい場所で暮らしていた。 けれど、僕らが生まれた時代と場所では、猫は人間達に管理され、自由がなかった。 僕らは、別々の人間に預けられた。 僕を育ててくれた人は、とても優しい人で、たくさんの捨てられた猫や動物を助け、みんなを守り育ててくれた。 けれども、シュレーは人間に殺されてしまった。 生き残った僕は、《黄泉の国》に行ってしまったシュレーと一緒にいるために、《黄泉の国》と《生者の国》の狭間に、この《アメンティ神殿》を建てたんだ。 ここなら、僕らは一緒に暮らすことができるんだ。」 ディンガーの話を聴いた3人は、「三種の指輪が完成すればシュレーを蘇らせることができる」ことを話した。 すると、シュレーが神殿の奥から、闇夜に輝く星を閉じ込めたような宝石〈冥界宝珠〉を持ってきて、ディンガーが、美しい掘り模様が入った金色に輝く祭壇の上に、〈三種の指輪〉を置くように指し示した。 3人が、3つの部分に分かれていた〈三種の指輪〉を祭壇に置き、シュレーとディンガーが息を吹きかけると、バラバラになっていた指輪は、空中でひとつの完成体となった。 3人は、驚きと喜びの歓声を上げた。 シンニードが 「これで、あとは“世界一の魔法使いが知る呪文”があれば、シュレーもローパーもピッピも蘇らせることができるわ!」 と叫ぶと、ダリズが、言った。 「ディンガー!僕らと一緒に世界一の魔女を探しに行こう!」 すると、ディンガーは、 「僕は、ここ《アメンティ神殿》で、シュレーと一緒に待っているよ。そして、〈三種の指輪〉が魔法の指輪として誕生した時には、必ず会いに行く。」と、約束した。 天使アルは、神殿の向こうに広がる、星の数ほどに広がる“動物たちの御霊”と墓を眺めていた。 そして、真珠の涙を一粒落とすと、天空のオーロラの中でレクイエムを歌った。 砂漠に広がる無数の光は、鎖から解き放たれたように天に向かい飛び立ち、オーロラは闇に溶けるようになくなると、 《アメンティ神殿》も、不思議な双子の猫“シュレーとディンガー”も消えていた。 空には、静かに満天の星々が瞬いていた。 (つづく)